【第88回】大塚 真司さん \ 自分にとってのウェルビーイング / 〜 ひとはいつからでも   どこからでもよくなれる 〜

努力の先にある「虚無感」の正体

「毎日必死に走り続けて、掲げた数値もクリアしている。それなのに、なぜか心が満たされない……」

このような、成功の裏側に潜む漠然とした「虚無感」に悩まされてはいませんか? 心理学ではこれを「実存的真空」と呼ぶこともあります。がむしゃらに階段を上り続け、頂上に立った瞬間に「自分が上るべき山はここじゃなかった」と気づく——。そんな悲劇を未然に防ぐ鍵が、今回ご紹介する「目的」と「ウェルビーイング」に基づく逆算思考です。

本記事では、異業種交流ギルド「クロストーク(冒険者たちの集い)」の第88回イベントにて、大塚ファンド株式会社 代表取締役の大塚真司氏が行ったプレゼンテーション「自分にとってのウェルビーイング:人はいつからでも、どこからでも良くなれる」の内容を、ライフデザインの専門的視点を交えて紐解きます。

「ひとはいつからでも、どこからでも良くなれる」。この言葉は、単なる精神論ではありません。戦略的に人生を整えるための出発点です。

目標を達成しても「パッションダウン」が起こる理由

大塚氏はかつて、日産自動車のエンジニアとしてGTRやセレナ、電気自動車ノートといった名車の開発に携わっていました。常に「いつまでに、どのスペックのエンジンを完成させるか」という過酷な目標(WHAT)を追いかけ、見事に達成し続けてきたエリートです。

しかし、輝かしい成果の先に待っていたのは、意外にも深い喪失感でした。

「目標を達成してきたんですけど、その達成した先に、あれ、私これ何のために働いてるんだったっけ?というのを常々思ってきた」

大塚氏はこの現象を「パッションダウン」と表現しました。専門的な視点で分析すれば、これは「ヘドニック・トレッドミル(快楽の踏み車)」現象に陥っていたと言えます。目的(WHY)がないまま目標(WHAT)だけを追いかけると、達成の喜びは一瞬で消え、さらに強い刺激を求めて走り続けなければならなくなります。

ここで重要なのは、大塚氏が「14店舗を展開する地元・姫路の老舗スーパー『ボンマルシェ』の創業家の長男」という、約束された地位を継がないと決断した背景です。彼は単に「何をするか」という役割を演じるのではなく、「どうありたいか」という自らの目的を優先しました。

  • 目的(抽象的・最終地点): 「どうありたいか(幸せ、健康、貢献など)」
  • 目標(具体的・手段): 目的を叶えるための「何をするか(数値、行動など)」

目的を先に見定めない限り、どんなに高い目標を達成しても、人生の充実感という「当たり」を引くことはできません。

阿弥陀くじに学ぶ「逆算思考」の圧倒的な効率性

「目的を持たずに行動すること」がどれほどのリスクを孕んでいるか。大塚氏は「阿弥陀くじ(あみだくじ)」を例に、その効率性の差を論理的に示しました。

例えば、1〜4番の入り口があり、下側の「当たり(目的)」が見えない状態でスタートするとします。 1番を選んで外れ、2番を選んで外れ、3回目にようやく当たりに辿り着いた場合、そこには「3倍」の時間と労力の浪費が発生しています。これは単なる「運の悪さ」ではなく、下側(目的)を定義せずに闇雲に動くことで生じる「数学的な必然」としてのロスです。

一方で、先に「下側(目的)」を特定してから、逆算して上の入り口(行動)を選べば、最短・最速で正解に到達できます。

  • 逆算思考: 目的(くじの下側)から、今取るべき行動を導き出す。
  • 積み上げ思考: 目的がないまま「とりあえず」で行動を繰り返し、偶然の正解を待つ。

「がむしゃらな努力」が称賛されることもありますが、目的が不明確な努力は、本来の望みから遠ざかる「命の浪費」に繋がるリスクがあるのです。

ウェルビーイングは「3つの柱」が揃って初めて成立する

大塚氏は現在、地元・姫路で「デジタルの力で地元のウェルビーイングを叶える」という理念を掲げ、ITコンサルティングやコワーキングスペース「moco」の運営を行っています。

特筆すべきは、彼の会社が「健康経営優良法人(ブライト500)」という、全国でも上位500社しか選ばれない栄誉ある認定を受けている点です。5年で従業員を0名から25名にまで増やし、成長を続けている背景には、この「ウェルビーイング」を経営戦略の核に据えている事実があります。

大塚氏が定義するウェルビーイングの「3つの柱」は以下の通りです。

  1. 身体的健康: 体が健やかであること。
  2. 精神的健康: 心が満たされていること。
  3. 社会的つながり: 孤独ではなく、社会や他者との結びつきがあること。

「幸せというのは、体が健康で、心が健康で、かつ社会的繋がりを持っていること。どれ1つ欠けてもダメ」

専門家の視点から補足すれば、これらは相互依存の関係にあります。例えば、数億円を稼ぐCEOであっても、心身を壊して病院のベッドに横たわり、誰からも連絡が来ない孤独な状態であれば、それはウェルビーイングが崩壊していると言わざるを得ません。

10年後の自分を「願う」のではなく「決める」

プレゼンの冒頭、大塚氏は「10年後、どうなっていますか?」と問いかけました。ここで鍵となるのは、「〜なりたい(願い)」という不確定な表現ではなく、「〜なっている(決定)」と言い切るマインドセットの転換です。

「願う」だけでは脳は現状維持を選択しますが、「決める」ことで脳は目的達成のための情報収集を始めます。大塚氏は具体的ワークとして、以下を推奨しています。

  • 「人生でやりたいこと」の全リストアップ: 「オーロラを見る」「ギターを弾く」といった個人的な欲望から、「地域に貢献する大企業にする」といった志まで、すべてを書き出す。
  • 究極の目的から逆算する: 例えば、大塚氏には「100歳になっても自分の足で歩きたい」という目的があります。だからこそ、週2回の筋トレやトライアスロンへの挑戦という「目標」が、義務ではなく「未来を叶えるためのワクワクする手段」に変わるのです。

今日から始まる「自分らしい人生」への冒険

大塚真司氏がエンジニアから経営者へ転身し、地元・姫路を「誰もが戻れる場所、チャレンジできる場所」に変えようとしているのは、すべて「目的」からの逆算の結果です。目的が明確になれば、現在の仕事や生活のすべてが、自分が目指す未来へと繋がる意味のあるパーツになります。

「クロストーク」という冒険者たちのギルドで語られたこの知恵は、あなたの人生という物語を整えるためのコンパスとなるでしょう。

最後に、あなた自身に問いかけてみてください。

「あなたが今日行っているその行動は、10年後の『目的』に繋がっていますか?」

目的さえ決まれば、人はいつからでも、どこからでも良くなれます。今日この瞬間を、あなたらしい人生を再定義する「冒険のスタート」にしてください。

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