あなたは「何面体」の自分で生きていますか?
「気がつくと一日が終わっている」「やりたいことはあるのに、日々の忙しさに忙殺されて時が溶けていく……」。現代社会を生きる私たちが抱くこの焦燥感は、自分を「会社員」や「親」といった単一の役割、つまり「一面体」に押し込めていることから生じます。
オンライン交流会「クロストーク」にて、大塚ファンド取締役の大塚有希氏が提示したテーマは、私たちの生存戦略を根底から揺さぶるものでした。それは、人生を豊かにするために自分を「多面体」として捉え直し、主体的に「面」を増やしていくという考え方です。
死の淵を彷徨った経験から導き出された「今を全力で生きる」ための覚悟と、それを現実のものにする具体的なライフデザインの技術。本記事では、戦略的な視点と実践的なヒントを交え、大塚氏の知見を「後悔しない人生」のための指針として解き明かします。
肩書きを増やし「球体」に近づくことで、世界は広がる
大塚氏は、自身の20年間のキャリアを「多面体への進化」のプロセスとして分析しています。2006年の新入社員時代、彼女は「会社員」という一面しか持たない存在でした。しかし、2026年現在の彼女は、大塚ファンドの取締役、博士号保持者、大学の非常勤講師、母親、妻、そして放置竹林の課題に挑む活動家と、枚挙にいとまがないほどの「面」を併せ持っています。
この多面性こそが、彼女の説く「アントレプレナーシップ(起業家精神)」の源泉です。ここでのアントレプレナーシップとは、単なる起業を指す言葉ではありません。
- イノベーションの創出
- 社会課題の解決
- レールが敷かれていないキャリアの主体的構築
これら3つの柱を軸に、多様な場面で価値を発揮する能力を指します。自分の中に多くの「面」を持つことは、他者との接地面を増やすことと同義です。
「自分の一側面だけで物事を捉えていると、なかなか意見が反発したりすることがある。自分をどんどん増やして、球体に近づけていくと、他人の意見も受け入れやすくなる。」
自分を「球体」へと近づける戦略は、多様な価値観を受容する傾聴力や調整力を養い、複雑な人間関係や社会課題を円滑に解決する力へと昇華されるのです。
死の淵で気づいた「明日が来る保証はない」という真実
大塚氏が「やりたいことを絶対に諦めない」と決意した背景には、生命の危機に直面した壮絶な体験があります。第一子の出産時――それも双子の出産という過酷な状況下で、彼女は大量出血に見舞われました。
意識を失ったまま運び込まれたICU(集中治療室)。辛うじて一命を取り留めた彼女が目覚めたとき、世界の見え方は一変していました。「昨日があったから今日があり、当然明日も来る」という無意識の前提が、いかに脆い幻想であるかを突きつけられたのです。
「明日やろう、一年後やろうと思っていても、今日この瞬間に成し遂げられないかもしれない。今全力で、全てをやっていくしかない。」
「老後になったら」という先延ばしは、明日を疑わない傲慢さに過ぎないのかもしれません。いつ命が尽きても後悔しないよう、「今、この瞬間」にリソースを全投入する。この切実なマインドセットこそが、多忙な多面体的生活を支える真の原動力となっています。
人生を設計する「10年年表」フレームワーク
やりたいことを「願望」で終わらせないために、大塚氏は「Notion」を活用した独自のライフプランニングを実践しています。これは意識の奥底にある望みを言語化し、潜在意識に働きかける戦略的アプローチです。
「10年年表」の構築と運用メソッド
- 徹底的な言語化: 2〜3日のリトリート期間を設け、自分と家族の年齢を軸にした年表を作成。
- 多角的な5項目: 「健康」「人間関係」「仕事」「能力開発」「経済(貯蓄)」のカテゴリーで具体策を書き出す。
- 忘却の効用: 一旦Notionに書き出したら、あえて「忘れる」。これにより、意識的な焦りから解放され、無意識(深層心理)が必要な情報や縁を自動的に手繰り寄せる状態を作る。
- 赤字の自己肯定: 毎年10月には「月刊表」を作成し、細分化した予定に落とし込む。半年〜1年ごとに見直し、達成できた項目を「赤字」で追記する。
この「赤字で書き足す」プロセスこそが重要です。できていないことに目を向けるのではなく、実現できた自分を視覚的に確認し、褒める。この自己肯定感のサイクルが、次なる挑戦へのエネルギーを生み出します。
時間は「作る」もの。TOC理論による役割の戦略的外注
「やりたいことが多すぎて時間が足りない」というボトルネックに対し、大塚氏は「TOC(Theory of Constraints:制約理論)」を適用しています。これは、全体の流れを阻害している「制約」を特定し、そこを重点的に改善することで全体のパフォーマンスを最大化する理論です。
戦略家としての彼女は、家庭においても「役割の戦略的外注(アウトソーシング)」を徹底しています。例えば洗濯という家事。
「自分がやった方が早い」という短絡的な思考を捨て、子供たちに「このボタンを押せば洗濯ができる」という教育を施す。これは単なる家事分担ではなく、チーム(家族)全体の能力を底上げし、自分の時間を「高付加価値な活動」へ再配分するためのリーダーシップです。「他人に任せられることは任せる」という精神が、多面体としての活動時間を創出します。
時間活用を最大化する4ステップ
- 可視化: Notion等でやりたいことを言語化し、長期視点で整理する。
- ボトルネックの特定: 自分の「時を溶かしている」真の原因を見極める。
- 戦略的委譲: 教育やシステム化により、自分以外でも回る仕組みを作る。
- 再投資: 回収した時間を、10年年表に記した「本当にやりたいこと」へ充てる。
あなたの「10年年表」の最初の一行は?
多面的な自分を楽しみ、限られた時間を戦略的に管理することは、特別な才能ではなく「決断」の問題です。明日という不確かな未来に期待するのをやめ、今この瞬間に全力を注ぐと決める。その瞬間から、あなたの「伝説のページ」は動き出します。
大塚氏は最後にこう締めくくりました。
「紙とペンさえあれば何でもできる」
これは、自らの手で人生を切り拓いてきた冒険者による、究極の装備の提案です。もし、明日が人生最後の日だとしたら、あなたはずっと先延ばしにしていた「やりたいこと」を今日、書き始めないでしょうか。10年後の自分を想像し、最初の一行を記す。その小さな一歩が、後悔のない人生を創り上げるのです。
