【第94回】神原麻里(かんばらまり)さん\ 地域で挑戦していくコバコ / 〜 人は地域の境なく繋がれる 〜

駅前の「箱」から始まる冒険

「サリュート(Salute)!」

これは、兵庫県佐用町にある地域拠点「コバコ(KOBAKO)」に集う仲間たちが交わす、冒険の始まりを告げる挨拶です。

「新しいことに挑戦したいけれど、何から始めればいいかわからない」「地方で何かを始めるのはハードルが高い」。そんな不安を抱える方にこそ、佐用駅前にある奥行きわずか「35歩」の不思議な建物、コバコを訪ねてほしいのです。この「35歩」という距離は、宿泊エリアの奥の壁から入り口のドアまでを、実際に店長の神原麻里さんが歩いて測ったもの。

一見すると細長い、小さな「箱」のような場所。しかしここには、地域の境界を越えて人が繋がり、誰もが自分の「強み」を発揮して一歩を踏み出すための、温かくて知的な仕掛けが詰まっています。

元・自転車預かり所?建物の歴史が教える「役割の変遷」

コバコの建物は、時代とともにその役割をしなやかに変えてきた歴史を持っています。

「一番最初は自転車預かりだったみたいです……その後、洋服屋さんになって、塾ができて、コバコになった」

佐用駅の誕生とともに生まれた商店街で、かつては通勤・通学客の「移動」を支える自転車預かり所でした。その後は暮らしを彩る洋服店、未来を拓く知識を育む学習塾を経て、2018年に「コバコ ワーク&キャンプ」へと生まれ変わりました。

この変遷を辿ると、この場所は常に「人々の動き」を支えてきたことがわかります。自転車から衣類へ、知識から起業へ。建物自体が変化を柔軟に受け入れてきた歴史そのものが、今のコバコが持つ「新しい挑戦を拒まない土壌」となっているのです。

3. 「自分のお店」が1箱から持てる。初めの一歩を支える委託販売の哲学

コバコに入ってまず目に飛び込んでくるのは、壁一面に並んだ木箱です。ここではハンドメイド雑貨や、海外から直接仕入れたこだわりの品々が販売されていますが、これらはすべて「委託販売」という仕組みで運営されています。

  • 1箱オーナー制度: 「この箱の中は、あなただけの小さなお店です」という考え方。レイアウトや値決めも自由で、リスクを抑えながら「自分の城」を持つ高揚感を味わえます。
  • 伴走型のイベントサポート: 雑貨販売に留まらず、「カレーとコーラの夏祭り」や「ボードゲーム交流会」、「大学生によるプログラミング教室」など、多様なイベントがここから生まれています。

初めて企画に挑む人には、神原さんがアイデア出しからスケジュール管理、チラシ作成まで丁寧に伴走します。自分の表現が誰かに届く喜びを知り、自信を深めていく。そんな「成功体験の種」が、この小さな箱の中に蒔かれているのです。

「お母さんの後回し」を解消する。自己犠牲ではないウェルビーイング

月に2回、第3水曜日に開催される「ほっこりカフェ」は、地域の母親たちが主役になれる大切な場所です。家事や育児、介護に追われ、自分のことが後回しになりがちな彼女たちが、一人の人間として「やりたいこと」を話し、それを否定されずに応援し合える空気感を守っています。

「自分を大切にすることは、子供さんや家族を幸せにすることにもつながる」

この活動の根底には、あるスタッフの劇的な変化がありました。「ここで働き出してから、仕事がこんなに楽しいとは思わなかった」という彼女の輝く姿が、周囲にポジティブな連鎖を生んだのです。

誰かのために自分を犠牲にするのではなく、まず自分自身が満たされ、主体的に楽しむこと。そんな「支援者のウェルビーイング」が、地域全体の幸せへと繋がっていく様子は、コバコが大切にしているコミュニティの理想像そのものです。

発掘調査員から店長へ。強みを見つける「キャリアの考古学」

店長の神原さん自身の経歴は、驚くほど多才です。ホームセンターでの人事総務や店長職を経て、佐用町では「発掘調査員」として遺跡から出土した遺物の整理や古文書のクリーニングに携わっていました。

一見、現在の仕事とは無関係に思える「発掘」の経験。しかし、泥にまみれた1,000年前の土器を丁寧に洗い出し、ナンバリングしてその価値を見出す作業は、現代において「人の心に眠る強みを発掘し、形にする」今の仕事に鮮やかに重なっています。

過去の遺物を整理する根気強さと、見過ごされがちな美点を見出す観察眼。神原さんはまさに、現代の「才能の発掘調査員」として、人々の可能性を丁寧に磨き上げています。

誰もが自分の強みに気づき、必要とされる未来へ

このコバコのミッションには、過去の経験をすべて糧にし、一人ひとりの適性を活かせる社会を作りたいという、静かな、しかし力強い意志が込められています。

地域の境を越えて、冒険は続く

コバコが目指しているのは、行政区画としての「地域」という境界を溶かすことです。「人は地域の境なく繋がれる」。そんな信念のもと、志を同じくする仲間の繋がりこそが、新しい時代の「地域」の姿であると定義しています。

次の冒険の扉は、すでに開かれています。

  • 7月17日(金)18:00〜: 交流会「コバコナイト」(ゲスト:アンゾ・寺川さん)
  • 9月9日(水)スタート: 全6回の「起業準備セミナー」

オンラインとオフラインの両方で、新しい世界へ踏み出すためのきっかけが用意されています。

もし、あなたの身近に「35歩」で歩ききれる場所があったら、そこからどんな挑戦を始めたいですか?その最初の一歩を、コバコは「サリュート!」の掛け声とともに、いつでも待っています。

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