デジタル時代に「地域」で選ばれ続けるという難問
「これほど頑張っているのに、なぜ届かないんだろう」
スマートフォンの画面をスクロールすれば、無数のキラキラした情報が流れ去っていく現代。地方で商いをする多くの人々が、出口の見えない孤独感と焦燥感を抱えています。どれだけSNSを更新しても、情報の海に一瞬で飲み込まれ、実体のある「客足」に繋がらない。そんな「形だけの地域振興」の限界に、誰もが気づき始めています。
この閉塞感を打ち破るヒントが、兵庫県播磨地域にあります。圧倒的な支持を得た地域情報誌『まるはり』の元発行人であり、現在は「ひょうごローカルファンクラブ」を率いる髙原成暢氏。彼が10年の歳月と2億円という巨費を投じて辿り着いたのは、単なる情報の「編集」ではなく、人と店が血の通った繋がりを持つ「エコシステム(生態系)」への転換でした。
デジタル全盛の今だからこそ必要な、泥臭くも鮮やかな地域ムーブメントの核心を解き明かしていきます。
【Point 1】信頼の土台は、妥協なき「泥臭い商品開発」にある
ブランドとは一朝一夕に築けるものではありません。雑誌『まるはり』を地域ブランドへと押し上げた原点は、髙原氏が「作品」と呼び、魂を削るようにして向き合った毎号の商品開発にあります。
「一冊の本が、次の仕事に繋がる」。その信念のもと、高原氏は2億円もの投資を続けながら、徹底的に品質を担保してきました。それは、単に綺麗な誌面を作ることではありません。読者に媚びることなく、作り手自身が「これは面白い、明日ここへ行きたい」と心から思えるレベルまで一気に作り込む、その「泥臭いプロセス」そのものがブランドの生命線となるのです。
「妥協なき『継続的な商品開発』が、すべての信頼の土台となる」
この言葉は、情報の信憑性が揺らぐ現代において、逃げずに作り込まれた「本物」だけが地域の信頼を勝ち取れることを物語っています。
【Point 2】ブランディングの定義を「関わる全員が楽しい状態」に書き換える
髙原氏が提唱する「髙原流ブランディング」は、一般的な知名度向上とは一線を画します。その真髄は、「関わる全員が楽しい状態(ワクワク)」を創り出すことにあります。
髙原氏は、独自の価値を生む仕組みとして「まるはりマインド」という3つのこだわりを徹底しました。
- 現場が楽しいこと: 取材に関わるライターやカメラマンが、現場の熱気に心躍らせているか。
- 枠に囚われないこと: 「いい意味で何でもあり」。スポンサーや周囲に遠慮して企画を丸くせず、読者が驚くような鋭い切り口を貫くこと。
- 作り手が使い手であること: 制作者自身がその情報のファンであり、自分たちで使い倒したいと思えるものを作ること。
創り手(クリエイター)、受け手(読者・客)、そして舞台(店舗・地域)。この三者が「ワクワク」という共通言語で結ばれたとき、単なる顧客を超えた「熱狂的なマインド」を持つ仲間が集まり、ブランドは真の強さを獲得するのです。
【Point 3】スマホ時代の勝機は「情報の提供」から「直接的なつながり」へ
かつて(スマホ普及前)は、限られたメディアが質の高い情報を独占的に届ける「情報の時代」でした。しかし、誰もが発信者となった現代、情報の価値は相対的に低下し、人々は「情報」そのものではなく、その先にある「確かな繋がり」を求めるようになりました。
高原氏は、時代が一方的な発信から、人と人が直接交わる「生態系(エコシステム)」の構築へシフトしたと分析しています。今、地方の事業者に必要なのは、画面越しに情報を届けることではありません。地域の店と店、人と人が手を取り合い、互いに客を送り合う。そんな実体のあるネットワークを地域に根付かせることなのです。
【Point 4】あえて「究極の狭き門」を作るという逆転の発想
このエコシステムを実現するための戦略が、非常にユニークです。「兵庫ローカルファンクラブ」は、Webサイト等で一般会員をオープンに募集することはありません。入会するには、「必ず加盟店へ足を運ばなければならない」というルールを設けています。
「Webで完結できない」というデジタル時代への逆行。しかし、この「不便さ」こそが強力な価値を生みます。
- 欲求: ユーザーが魅力的な特典を知り「入会したい」と思う。
- 障壁: Webでは入会不可。必ず「加盟店」の実店舗に行く必要がある。
- 達成(入会): 店舗でサービスを受け、そこで初めて物理的な「会員証」を手にする。
このプロセスを経ることで、会員は「わざわざ足を運んだ」という体験を共有し、ブランドへの強い愛着を抱きます。また、店側にとっては、Web広告では得られない「目的来店」を確実に創出できるのです。あえて門を狭めることで、コミュニティの質を担保し、実体のある経済圏を動かす送客エンジンを作り上げました。
【Point 5】店舗は「加盟店」ではなく、地域を動かす「ハブ」に変わる
この仕組みにおいて、個々の店舗は単なる加盟店ではありません。一人の顧客が特定の店で会員証を手にした瞬間から、地域全体がその人の「遊び場」に変わる、そんな「地域のハブ」としての役割を担います。
髙原氏が描く完成形は、無限の循環(∞)を描くエコシステムです。
- 新規来店と感動: 会員証を求めて訪れた顧客に、店舗独自のオリジナリティで感動を与える。
- ゲートウェイとしての役割: 店舗が会員証を発行し、顧客を「地域の仲間」へと導く。
- ネットワークへの送客: 会員がエコシステム内の他店へと回遊し、地域内を循環する。
- 還流: 他店で生まれた会員が、再び自分の店舗へもやってくる。
5年、10年かけてこの「ハブ&スポーク」のネットワークを積み上げていくことで、地域全体が最強のブランドとして機能し始めます。髙原氏は、そのための唯一の近道をこう語ります。
「今受けてる仕事、今やる仕事をなんせ一生懸命やることが、本当に先に繋がります」
[泥臭い「作り込み」の精神] × [最新の「ハブ&スポーク送客」システム] = 最強の地域ブランド
この数式が、これからの地域を面白くする答えなのです。
5年後、10年後のあなたの地域を「面白く」するために
情報の海に溺れ、孤独に闘う必要はありません。目の前の一つの仕事に魂を込め、隣の店と手を取り合い、客を循環させる。そんなアナログな「泥臭さ」とデジタルな「仕組み」が融合したとき、あなたの街には持続可能なワクワクの連鎖が生まれます。
それは一軒の店から始まり、やがて地域全体を飲み込む大きな「生態系」へと育っていくはずです。
あなたは目の前の仕事を通じて、どんなワクワクの連鎖(エコシステム)を創り出したいですか?
その情熱こそが、5年後、10年後の未来を面白くする、最初の1ページになるのです。

