【第85回】吉留健一さん \ 飲食繁盛店の「新常識」 / 〜 ピラミッド経営の秘訣 〜

あなたは今日、料理人として働きましたか?それとも「経営者」として働きましたか?

「あそこの料理は絶品なのに、なぜか客が入っていない」「店主はあんなに一生懸命なのに、また一つ店が消えてしまった」。飲食業界に身を置く人なら、一度は目にしたことがある光景でしょう。かつて吉留健一氏が姫路で飲食店組合を立ち上げた際、目の当たりにしたのは「味は良いのに、生活のために苦し紛れに店を続けている」店主たちの悲痛な叫びでした。

「努力は必ず報われる」という言葉は、飲食店経営においては残酷な幻想に過ぎません。料理の腕を磨くだけでは、店を守ることはできないのです。17年で8店舗から40店舗、年商25億円、そして9期連続増収増益という驚異的な実績を叩き出した吉留氏は、繁盛店には揺るぎない「原理原則」があると言い切ります。

1. 【衝撃】売上が下がった時の「販促」は、むしろ毒になる

客足が遠のいた時、多くのオーナーが真っ先に手を出すのが「販促」です。グルメサイトへの追加投資、SNS広告、苦し紛れのタイムサービス……。しかし、吉留氏はこれを「最も危険な打ち手」であると警告します。

ここで重要になるのが、吉留氏が提唱する「ピラミッド経営」という概念です。経営は下から順に、以下の3段階で積み上がらなければなりません。

  1. 人の採用・育成(土台)
  2. 従業員満足・顧客満足(中間層)
  3. 販促・マーケティング(頂点)

土台である「人」が育っておらず、サービス品質(従業員満足・顧客満足)が低い状態で販促を行うのは、穴の開いたバケツに水を注ぐようなものです。無理に集客しても、不慣れなスタッフが質の低いサービスを提供すれば、顧客は二度と戻ってきません。

「飲食店に魔法はありません。原理原則なんです。この原理原則をきちんとしっているかどうかで、打ち手が存在してくるのです。」

この言葉通り、土台がない状態での販促は、経営をさらに悪化させる「毒」になりかねないのです。

2. 「秘伝の味」より「経営の型」を優先すべき理由

「良いものを作れば、客は来る」。この職人気質のプライドこそが、時に成長のボトルネックとなります。料理の技術を磨くことと、店舗を経営するスキルを磨くことは、全く別の領域です。

吉留氏が体系化したメソッドは、世界中で圧倒的な再現性を誇るマクドナルドのモデルをルーツとしています。それは単なる経験則ではなく、特許庁に商標登録された「飲食店経営管理士」という民間資格として確立された、科学的な「型」なのです。

経営は才能ではありません。「学習可能なスキル」です。その証明となるのが、吉留氏の妻のエピソードです。6年間の専業主婦で飲食未経験だった彼女は、この「型」を学び、わずか半年で自らの店「創作万歳 魚九番」をオープン、見事に成功させています。レシピに工程があるように、経営にも正しい手順と「型」が存在するのです。

3. スタッフ不足を解消する「ドラフト会議」の思考法

「人が足りないから募集する」。この当たり前の行動が、実は人手不足を慢性化させる原因です。吉留氏は、プロ野球チームの阪神タイガースを例に、驚くべき逆説を提示します。

強いチームは、一軍が充実している時こそ、ドラフトで若手を獲得し、二軍で育成します。5年後、10年後を見据えて「常に次世代を育てるサイクル(循環)」を回しているのです。

飲食店も同じです。「スタッフは辞めるのが前提」であり、今のメンバーが充実している時期にこそ、次の世代を採用し、育成し続けなければなりません。「欠員が出たから補充する」という場当たり的な対応ではなく、組織の中に常に新しい血が巡る循環を作ること。これが、人で苦労しない唯一の解決策です。

4. 「一人で頑張る」社長こそが、成長のボトルネックである

「なぜ人が育たないのか」「なぜ自分だけが忙しいのか」。そう嘆くオーナーの多くは、皮肉にもその「一生懸命さ」が原因で成長を止めています。

根本的な原因は、すべての課題を一人で解決しようとする慢心にあります。自分一人で考え、決断し、現場を回す。これでは社長自身のキャパシティが、そのまま事業の限界点となってしまいます。

ステージを確実に上げるために必要なのは、「他者力(他人の力)」を借りることです。例えば、3ヶ月で10キロ痩せたい時、一人で闇雲に走るよりも、プロのパーソナルトレーナーを付ける方が、決められた期間内で確実に結果を出せます。経営も同様に、専門家の力を借りて「時間軸を持って結果にコミットする」という発想が、あなたを現場という名の檻から解放するのです。

5. 飲食業の「幸せの定義」を書き換える

飲食業において「儲けること」をタブー視する風潮がありますが、吉留氏はこれを真っ向から否定します。

「オーナーがしっかり稼ぎ、利益を出すこと。そこからすべてが始まります」。オーナーが潤うことでスタッフへ還元ができ、満たされたスタッフが最高のパフォーマンスで顧客を幸せにする。この「幸せの循環」こそが、飲食業の本来あるべき姿です。

儲けることは、スタッフと顧客を幸せにするための「義務」なのです。

あなたの店には、揺るぎないピラミッドの土台がありますか? もし、日々の忙しさに追われ、出口が見えないと感じているなら、今日から「自分一人で頑張る努力」を捨て、経営の「型」を学ぶ一歩を踏み出してみてください。その決断が、あなたと、あなたの大切なスタッフを救う唯一の道になるはずです。

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